「対話」プロジェクト

「対話型鑑賞法のあれこれ」

講座概要

あいちトリエンナーレ2019のボランティア研修で活躍された平野智紀さんは、東京大学大学院学際情報学府博士課程に在籍されて、専門的に「対話型鑑賞法」を実践されている若き研究者です。

愛知県に緊急事態宣言が発令され、残念ながら対面でのワークシップ開催ができませんでしたが、オンラインでレクチャーと「ブラインドトーク・ワークショップ」を体験することができました。授業の一部を紹介しましょう。

「対話型鑑賞法のあれこれ」

「ブラインドトーク」ワークショップを体験

対話型鑑賞そのものではないのですが、作品をじっくり見てよく考えてお互いに話し合って相手の意見をよく聞くという、対話型鑑賞のエッセンスが詰まった「ブラインドトーク」というワークショップの体験をしていただきたいと思います。

やることはすごくシンプルで、目隠しした相手に言葉だけで絵について伝えるというワークショップになります。目隠しと言っても、オンラインでどのようにやるのかというと、「説明役」の人と「聞き役」の人に分かれて、説明役の人だけが作品の画像を見て、聞き役の人は作品の画像を見ずに作品について言葉で伝えるということをやっていただきたいと思います。

〜実際にワークショップを行ってみよう!〜

弓指寛治《スイスの山々》と和田《Empty and Poke》を用いて、2回のブラインドトークを試みました。

対話型鑑賞のエッセンスを感じてもらうという意味で、絵を中心に対話をするということが、どういうことなのかを感じてもらうということで、ブラインドトークをやっていただきました。

※「ブラインドトーク」は京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターで開発されたワークショップです。

「対話型鑑賞」とは何か?

対話型鑑賞とは、美術史だけでなく作品そのものとの対話、およびそれを通じた鑑賞者同士の対話を通じたアートとの関わり方だと思っています。

ナビゲーターやファシリテーターが作品の前に立って、鑑賞者を盛り立てたり、唆したりしながら対話をリードする形で進めていくスタイルが多いと思います。

1980年代のニューヨーク近代美術館で生まれたと言われていますが、日本に紹介をされたのは1990年代を通じて、福のり子先生という京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)の教授が、対話型鑑賞を日本で精力的に紹介されてきました。

日本で対話型鑑賞の普及に貢献をしたのは、京都芸術大学のACOP(アート・コミュニケーション研究センター)です。ACOPの中では対話型鑑賞の四つの原則、まず「見る」こと、続いて「考える」、次に「話す」、最後に「聞く」ということが対話型鑑賞の原則と言えます。

皆さんも日々の生活の中で当たり前にやっていることだと思いますが、これを少し意識をしてやってみましょう、というのが対話型鑑賞の基本的な考え方になっています。

授業風景

鑑賞者の参加

鑑賞者の参加は、現代美術の作品では非常に重要な位置を占めています。鑑賞者が参加するということがあってこそ作品が意味を持つことが、対話型鑑賞があらためて注目されてきている理由のひとつだと思っています。

つまりアートとラーニングそのものが接近してきている、ラーニングをやること自体もアートになってきているという、そういう感じですね。

アート作品の鑑賞で面白いのは、Fact(客観的事実)をすっ飛ばして、最初に解釈が現れるというところです。ぱっと見た瞬間に「かわいいな」とか「恐ろしいな」とか「好きだな」とか「嫌いだな」とか、まず主観的解釈が感知されます。

対話型鑑賞では「どこからそういうものが……」とか「そこから考えられることはどんなことがありますか」という形で、客観的事実に戻していくような問いかけをしながら、Fact(事実)とFalse(虚偽)を重ねて積み上げていく、作品解釈を作っていくことが、対話型鑑賞の進め方だと思います。

一歩先を行く鑑賞者

私はあいちトリエンナーレ2019で、ボランティア育成と育成されたボランティアによるガイドツアーと団体鑑賞プログラムを担当しました。ボランティア育成では、先ほどお話した対話型鑑賞のエッセンスを加えた研修を実施しました。ボランティアさんには、毎週金・土・日曜日に対話型鑑賞を取り入れた形でガイドツアーを行っていただきました。

アート作品をつくるのはアーティストです。ただアート作品の意味や価値をつくるのは、それを見る人で、鑑賞者です。私の(六本木アートナイトやあいちトリエンナーレでの)経験を踏まえて、もう少し加えるとすると、鑑賞者のコミュニティを作るのは、一歩先を行くガイドボランティアなのではないかと思っています。

一歩先を行く鑑賞者として、そうではない鑑賞者の人を導いていくというか、楽しむ背中を見せる。そういったことが出来るのが、ガイドボランティアのガイドツアーなのだと思います。

インフォメーション

日付
2021年5月14日
時間
15:00 ~ 18:00
場所
オンライン
講師
平野 智紀

更新情報

2021.07.27
授業概要レポートをアップしました。
2021.07.20
本講座は開講済みです。レポートをアップをお待ちください。

プロフィール

平野 智紀(ひらの ともき)
平野 智紀(ひらの ともき)

平野 智紀(ひらの ともき)

1983年静岡県磐田市生まれ。専門は美術教育・教育工学・ワークショップ。あいちトリエンナーレ2019ボランティア育成特別講師、六本木アートナイトをもっと楽しむガイドツアー講師、京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター共同研究者ほか。内田洋行教育総合研究所、東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍(山内祐平研究室)。