「対話」プロジェクト

KYUN-CHOM(キュンチョメ)「対話が対話を超えるとき」

講座概要

あいちトリエンナーレ2019で発表された映像作品『声枯れるまで』が印象的だった「キュンチョメ」は、ホンマエリとナブチの二人によって結成されたアートユニット。自らの嗅覚と欲望に従って国内外各地に中長期にわたり滞在し、リサーチ、対話、アクションを繰り返しながら、その土地の最もコアな現実に切り込んでいくスタイルで活動しています。「境界」を眼差し、揺さぶり、非当事者として場に臨んで、「対話」を顕にする手法での作品は、優しく、残酷でもあり、哀しく、可笑しくもありました。

「対話が対話を超えるとき」とは、いったいどういうことなのだろうか?

キュンチョメの二人は、アートを学ぶ学生たちに向かって、等身大の真摯な言葉を投げかけました。その授業の一部を、ご紹介しましょう。

「対話が対話を超えるとき」

新しいコミュニケーションを生み出すこと

ホンマエリ
ホンマエリ

コミュニケーションとは何なのか?
これはとても普遍的なテーマで、デザイナーとかイラストレーターとか、一人で仕事をする時間が長い人達でも、実はコミュニケーションというものは超重要になってくるんですね。仕事をする上で、取引先とコミュニケーションが必要なのは当然なんだけど、それだけではなく、表現というのは鑑賞者やお客さんの感情とか、社会そのものとか、金銭を動かしていきますよね。実はそれら全てがコミュニケーションによって成り立っているんですね。SNSなんかを想像してもらうと分かりやすいかもしれないけれど、一枚のイラストでも発表することで複数のコミュニケーションを生み出していく。

ナブチ
ナブチ

漫画とかもそうだよね。

ホンマエリ
ホンマエリ

漫画の場合はそれだけじゃなくて、例えば、漫画の中で色々なパターンのコミュニケーションを描かなきゃいけない。めちゃくちゃコミュニケーションが苦手なやつとか、超得意なやつとか、群像を描かなきゃいけない。だから作家はコミュニケーションについて熟知しておかねばならないんですよ。もっといえば、人間を知る必要がある。だからアートにせよ、何にせよ、人がどういうコミュニケーションをしているのかということをまず知ることが超重要。もう一つは、自分はどういう新しいコミュニケーションができるのかということを探ること。あとは人がどんなコミュニケーションを欲しているのかを探ること、人の欲望を探るという事ですね、そういうことを日々意識しながら生きていくことが、作品制作にとってすごい重要だと思ってます。

ナブチ
ナブチ

そう、新しいコミュニケーションを自分で生み出すことはめっちゃ大事。そもそも世の中というのは基本的に自分のためにはできていないんですよ。ただ自分のやりやすいように変えていくことはできるんです。これはとっても重要な話で、例えば僕なんかは社会が苦手だし、社会に対して敵対心を常に持っているし、人も苦手だし、そもそも対話とかマジで無理。

ホンマエリ
ホンマエリ

コミュニケーションや対話に関する作品を作っているのにね。

ナブチ
ナブチ

でも無理。そもそも形式的な対話が超苦手なんですよね。だから自分はコミュニケーションが苦手だと思ってたし、自分自身のことをどうしようもない社会不適応者だと思っていた。でもある瞬間に、自分が生きやすいように社会のほうを変えてしまえばいいんじゃないか?って気がついたんですね。

ホンマエリ
ホンマエリ

それが表現だよね。

ナブチ
ナブチ

そう!
自分にあった新しいコミュニケーションを生み出して、それを使って、自分が生きやすい世界を作る。それこそが表現だったんです。

ホンマエリ
ホンマエリ

誰しも苦手なことがあったり、自分に不満や不安があったりすると思うんです。でも、自分は悪くないって開き直っちゃえばいい。苦手なことを強要してくる社会が悪いわけで、そんなものを必要としない場を自分で作っちゃえばいいんですね。それが表現なんです。みんなは、この大学でその手段を学べるはずです。同じようなものに興味を持ってる同世代の人たちが、こんなにもたくさん集まっている場所というのは、大学で最後なんですよ。そして、大学では失敗してもいいわけじゃないですか。大学っていうのは、絵が上手くなるための技術を学ぶだけではなく、生き方や価値観を人から学ぶいいチャンスだと思う。

ナブチ
ナブチ

多分、今それがものすごくやりやすい時代になっていて、例えば、Vtuberなんかがまさにそうなんだけど、自分の顔や情報を出さずに、自分の好きなように自分の生きやすいように世界を作り変えていけるわけじゃないですか。そういうことが当たり前にできる時代になってきているわけで、今は表現者にとって、めちゃくちゃ希望に溢れた良い時代だと思ってますね。

社会をテーマにした作品制作

画像: 授業風景
授業風景
ナブチ
ナブチ

今後、社会的な問題をテーマに作品をつくりたいとか、何かストーリーをつくってみたい人は結構いると思うんですけど、その時にとっても大切になってくるのは、自分のために作品を作ったほうが良いということなんですよね。社会のためにやるんじゃなくて、自分のためにやった方が絶対良くて。それはなんでかというと、そっちの方が嘘がないから。

ホンマエリ
ホンマエリ

嘘がないことってすごく重要なんですよ。自分のためにやった方が当然本気になれるし、作品のオーラにも影響していくる。嘘があると、それが作品から伝わってきちゃう。それに、誰かのために作品を作ったとして、もしその人が、「それは私のためにならないです」と言ったとしたら、その表現を取りやめるの?ってことになる。

ナブチ
ナブチ

もちろん他者に向けて作品を作るのはいいんだけど、根幹だけは絶対に渡さず、自分のものにしておいた方が、強いものができる。

ホンマエリ
ホンマエリ

何をやってもこれは違いますって絶対言われちゃうし、色々と予想しない言葉や反応が返ってくるんです。その時に「これは誰それの為じゃなくて、私のためなんだっ!」て思えれば、力強く最後まで走ることができるんです。

ナブチ
ナブチ

これは漫画でもデザインでも小説でもなんでも一緒なんだけど、社会と創作活動っていうのはドンドン密接になってきている。日本だと漫画やアニメが顕著だけど、作る側もポリティカルコレクトネス(政治的な正しさ)が確実に求められるようになってきているし、こういう表現は今後は出来ませんというのがたくさん出てきていて、それは覆せないものとなっていく。例えば人種差別であったりとか、性差別であったりとか、そういうものを表現の中で扱うときに、自分の基準だけを頼りに表現することはもはや難しい。でも実はそれもコミュニケーションなんだと僕は思うんです。
嫌だと言っている人たちが沢山いるのにも関わらず、それをあえてやろうとするっていうことは、それは加害性の高いコミュニケーションだということなんです。他者を叩いてまでしてそれをやる必要あるの?ということが今後問われていく。だから、それらが絶対にダメかどうかという議論は置いておくとして、ポリコレを完全に無視した表現は不可能に近づいていくと思うんですよね。自分がコミュニケーションを拒否しても、社会がコミュニケーションをしてくるので。人を叩いたら、叩き返されるのって当たり前のことじゃないですか。だから、加害性に関して無知なまま表現活動をはじめると、作家としても作品としても寿命が物凄く短くなってしまうと思うんですよ。

ホンマエリ
ホンマエリ

それに表現のなかで、自分が本当に大切にしてる部分を見てもらえなくなってしまうよね。結局その表現の加害性が高い部分とか、いわゆる炎上ポイント、そういう場所にしか目が行かなくなってしまうので。それはとても勿体無いというか、大事なものを失ってしまうことになるんです。だからそういう意味でも、自分の制作物に対して社会がどう眼差してくるのかということに常に意識的になった方が良いと思いますね。

画像: ホンマエリとナブチ
ホンマエリとナブチ

「対話」って楽しいですか?

ホンマエリ
ホンマエリ

普通の対話はつまらないかな。だから普通の対話って実はあんまりしてなくて、飲み会とかも興味ないなって思っちゃうこともあって。でもキュンチョメを通してやる対話は楽しいんですよ。超楽しくって、これのために生きてるって感じですね。だから、全ての対話を楽しむ必要はないけど、自分にとって楽しい対話やコミュニケーションを見つければいいんじゃないかと思います。

ナブチ
ナブチ

僕の場合は100人とコミュニケーションしなくちゃいけないって言われたら、多分そのうちの99人とは興味がないからコミュニケーションしたくない、喋りたくないんです。だから残りの一人にすべてのリソースを割いてコミュニケーションを取るんですよ。だから100万円を100人に配るんじゃなくて、一人に配るみたいな。それぐらいの方が自分にとっては楽しさがあるから、なんかその状態で僕は全然いいと思ってやってます。

ホンマエリ
ホンマエリ

コミュニケーションの形って自分で発明できるし、自分に合った形を活かしまくれば良いと思うんです。「自分は100人に1万円ずつ配ります」っていう人は、それはそれで才能だから。

ナブチ
ナブチ

才能がめっちゃある。

ホンマエリ
ホンマエリ

めっちゃあるね。その人が生み出した作品を見たいと思うし。自分のできることを考えることと、自分の欲望に素直になることっていうのは、表現の中で一番大事なことなんじゃないかなと思います。

ナブチ
ナブチ

楽しいですかというより、楽しいことをやりましょう。楽しい状態をやろうという感じかな。

インフォメーション

日付
2021年4月23日
時間
15:00 ~ 18:00
場所
名古屋造形大学 C503教室
講師
KYUN‐CHOM(キュンチョメ)

更新情報

2021.07.20
本講座は開講済みです。レポートをアップをお待ちください。
2021.07.20
開催レポートをアップしました。

プロフィール

KYUN‐CHOM(キュンチョメ)
KYUN‐CHOM(キュンチョメ)

KYUN‐CHOM(キュンチョメ)

ホンマエリとナブチの二人によって結成されたアートユニット。自らの嗅覚と欲望に従って国内外各地に中長期にわたり滞在し、リサーチ、対話、アクションを繰り返しながら、その土地の最もコアな現実に切り込んでいくスタイルで活動している。これまで福島、石巻、沖縄、香港、ベルリンなど、社会の分断を抱えた地域での活動を、主に映像インスタレーションとして発表。科学や論理を超えてなお人々が信じようとする「現代の信仰」の対象を探り、そこに渦巻く感情や真実をあぶり出す作品群は、加害者と被害者、当事者と非当事者、善と悪の境界線を揺さぶり、詩的かつユーモラスに異次元へと昇華させる。